成見和子のブログ

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【和訳あり】ジャズ歌詞解説 ~It's All Right With Me~

今日の歌詞解説は It's All Right With Me (イッツ・オール・ライト・ウィズ・ミー)です。

この曲の著作権は消滅していて、自由に利用できる状態になっています。

なので、翻訳にもトライしてみました。

解説のあとに全文の和訳を載せてありますので参考になさってくださいね。

 

実はこの歌、もうずっと以前から取り上げたかったのです。

歌詞に9回も出てくる wrong という単語をどう訳したらよいのかわからず、先延ばしになっておりました。

でも、今回思い切って書くことに。

訳語が最善でなくても、歌の雰囲気が全体として伝わればそれで良いかな、と思って。

ではいきましょう。

 

【 It's the wrong time and the wrong place 】

「これは間違った時間、そして間違った場所よ」。

it が何なのか、あまり深く考える必要もないかなあ、と思います。

しいて説明するならば「状況の it 」と言われるものだと思います。

漠然とした状況で、話し手と聞き手にはわかっているようなことを表す・・・のだそうです。

wrong という単語が難しいです。

悪い、よくない、誤った、間違った、不適切な、具合が悪い・・・

いや、難しくはないかな。イメージは一貫しているのですよね。

でも、どの日本語を訳語として使うかによって、歌詞の印象が変わってしまいそうです。

 

【 Though your face is charming, it's the wrong face 】

「あなたの顔は魅力的だけれど、違う顔よ」。

あ、何だか当たり前のように女性の言葉で書いていますね。

もちろんこれは、どちらでもいいのです。

もともとはミュージカルで男性が歌うために書かれたもののようですが、それにとらわれる必要はないと思います。

私も歌ってみたいなあ、と思っているので女性言葉にしてみた次第。

 

【 It's not his face, but such a charming face that it's all right with me 】

「彼の顔じゃない。でもとっても魅力的な顔だから、私は構わないわよ」。

男性が歌う場合には his が her になります。

ここまで読んできて、「特定の誰か」の存在が明らかになりましたね。

今ここにいるのは、その人ではない別の人物。

魅力的だけれど、やっぱり違う。

シチュエーションも問題です。

冒頭の It's the wrong time and the wrong place という文が意味深に迫って来ますね。

うまくいかない恋になげやりになった主人公は、日頃は行かないような場所に足を踏み入れて・・・なんていう想像が広がってしまいます。

もちろんここは読み手、歌い手次第です。

もともとのミュージカルでは具体的なシーンを思わせる歌詞だったのかもしれませんね。

でも、ここまで有名になってスタンダードになった歌ですから、歌い手それぞれにイメージを膨らませることは許されると思います。

文法的なこともきちんと説明しておきましょう。

この文の that は接続詞です。

such ~ that ... という形で「非常に ~ なので ... 」という意味になります。

~の部分に「形容詞+名詞」が入り、that 以下に結果や程度を示す内容が入ります。

 

【 It's the wrong song in the wrong style 】

「これは間違ったスタイルの間違った歌よ」。

 

【 Though your smile is lovely, it's the wrong smile 】

「あなたの笑顔は素敵だけど、違う笑顔だわ」。

 

【 It's not his smile, but such a lovely smile that it's all right with me 】

「彼の笑顔じゃない。でもとっても素敵な笑顔だから、私はOKよ」。

3文続けてさらっと訳してみましたが、なかなかにアブナイ状況ではあります・・・。

 

【 You can't know how happy I am that we met 】

how 以下が you can't know の内容です。

「間接疑問」と呼ばれる形になっています。

全体で「私たちが出会えて私がどれほど幸せか、あなたは知ることができない」という意味になります。

 

【 I'm strangely attracted to you 】

「私は不思議とあなたに惹かれるの」。

 

【 There's someone I'm trying so hard to forget 】

「私には必死に忘れようとしている人がいるの」。

someone のあとに関係代名詞が省略されています。

 

【 Don't you want to forget someone too? 】

「あなたもまた、誰かを忘れたいと思っているのではないですか?」。

否定の疑問文です。

単純な問いかけとも受け取れますし、「Yes」という答えを予期しているようにも思えますね。

 

【 It's the wrong game with the wrong chips 】

「これは間違ったチップを使った間違ったゲームよ」。

chip は賭け事などで現金の代わりに使われる札のこと。

この部分を読んだ時、私は「自暴自棄になって、価値の低いものに大金を賭ける」というイメージを抱いてしまいました。

もちろん私の勝手な感じ方ですけれども、主人公の置かれた危なっかしい状況がよく表れているフレーズだと思ったのです。

 

【 Though your lips are tempting, they're the wrong lips 】

「あなたの唇はそそられるけど、違う唇よ」。

 

【 They're not his lips, but they're such a tempting lips 】

「彼の唇じゃない。でもとても誘惑的だから・・・」

次の行に続きます。

長い文なので、分けて書きました。

 

【 That if some night you're free, dear, it's all right, it's all right with me 】

前にも2回出てきた、「 such ~ that ... 」の形です。

「もしもいつかフリーな夜があったら、ねえ、構わないわよ。私はOKよ」。

if 以下を本来の語順に戻すと if you're free some night となります。

some night を前に出したことでインパクトが大きくなるのですねえ。

それにしても、思いっきり誘っちゃってます。

大丈夫か、主人公。

・・・と言いながら、こういうこともあるよねえ、とも思うのです。

そんな瞬間を、ちょっとオシャレに、ちょっと皮肉っぽく切り取ったのが、この歌なのかなあ、と。

 

以上を踏まえて和訳です。

 

これは間違った時間 そして間違った場所だわ

あなたの顔は魅力的だけど 違う顔よ

彼の顔じゃない でも魅力的な顔だから私は構わない

これは間違ったスタイルの間違った歌よ

あなたの笑顔は素敵 でも違う笑顔だわ

彼の笑顔じゃない でも素敵な笑顔だから私はOKよ

出会えてとても幸せなの わからないわよね

なぜか不思議とあなたに惹かれるわ

必死に忘れようとしてる人がいるの

あなたもそうなんじゃない?

これは間違ったチップの間違ったゲーム

あなたの唇は魅惑的だけど 違う唇だわ

彼の唇じゃないけど とても魅惑的よ

だから あいてる夜があったら

ねえ 構わないわ 私はOKよ

 

いかがでしょう。

参考になりましたら幸いです。

/// Words by Cole Porter///

 

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