成見和子のブログ

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稲田豊史【映画を早送りで観る人たち】

稲田豊史「映画を早送りで観る人たち」読みました。

副題は「ファスト映画・ネタバレ――コンテンツ消費の現在形」です。

う~む、いろいろと考えさせられました。

 

この本を手に取ったのはタイトルに興味をひかれたから。

「映画を早送りで観るなんてとんでもない!」と考えてた私は、著者が一刀両断に「そうそう、おかしい! とんでもない! この状況を変えなければ!」なんてことを書いてくれてるのかな、と思ったのでした。

でも、そうじゃなかった。

そこにあったのは、現状の正確な認識と戸惑い。

価値判断を排した「コンテンツ消費の現在形」でした。

そして、読み終わった私は迷路に取り残された気分。

あ、これ、批判じゃないです。

迷路にはまり込んでいるのが現状であり、ここから抜け出す道はまだ見えてこない、ということが私にも理解できた、ってこと。

一章ごとに読み進めるにつれて、「あれ? そうなのかな? そうなのかも」という気分になっていきました。

簡単にその気分の変化を振り返ってみます。

 

序章 大いなる違和感

そうそう、ヘンだよねえ。

まさに大いなる違和感。

早送りで映画観るなんて、観たことにならないでしょ。

何でそんなことを!

昔はそんなこと・・・あ、いや、出来なかったから?

倍速視聴の機能があったとしたら、若い頃の私も使ったのかな?

 

第1章 早送りする人たち

倍速視聴の機能・・・需要があるから装備された、ってことだよねえ。

じゃあ、需要って具体的には?

「観たい」のではなく「知りたい」だって?

映画は情報じゃないぞ・・・いや、情報なのか・・・。

映画を「知って」、一体何の意味がある?

あ、「知っておくべき映画」がそんなに多いのかあ・・・。

とりあえずざっくり倍速視聴してみて、良いと思ったら、改めてじっくり観ればいい?

そっか、サブスクの時代だから、それも出来るんだよねえ・・・。

昔は一度DVD借りたら「元を取らねば!」だった。

つまらなくても最後まで観た。

勿体なかったから。

今の方が実はマトモ?

 

第2章 セリフで全部 説明して欲しい人たち

だからといって、映画は映画だぞ。

映画には映画なりの表現がある。

時には「わからない!」ってこともあった。

でもその時は「自分の理解力が足りないのかなあ・・・」と思ってた。

イマドキの若い人たちは「わからない」のは自分の力が足りないからだとは思わないんだって・・・

わからせてくれない方が悪いのだと・・・絶句。

 

第3章 失敗したくない人たち

失敗したっていいじゃないか!

たまたま観た映画がハズレだったとしても、それもまた良い経験。

人生長いんだぞ!

・・・とはいかないらしい、「Z世代」にとっては。

いや、私も若い頃は悩んだことあるなあ。

話題についていけなくて。

我が家にはテレビは一台しかなくて、子供にチャンネル権はなかった。

私は同級生の話題についていけなかった。

それでも、ちゃんとサバイブして、ちゃんと大人になって、それなりに社会生活してる。

いや、その頃と比べちゃいけないみたいだ。

今の若い人たちはSNSで24時間繋がってるんだって。

旬の話題についていけなければ困るらしいんだけど、「困る」の実態が、どうやら我々世代の想像を超えたレベルらしい。

テレビで人気の芸人さんたちを見てると、話題の豊富さや流行り物に関する知識にビックリする。

そりゃあ仕事なんだから、と思うけど、実はそれに近いレベルのことが普通の人にも求められてる、そんな感じなのかも。

そうでなくては仲間内でサバイブできないらしい。

昔なら、昼間だけ頑張って話を合わせておいて、家に帰ったら好きなことをしてればよかった。

全然話題になってない、流行りじゃないけど大好きな本を読む、とか。

でも今はSNSが追いかけてきて、「ねえ、話題のあれ観た?」なんてことになるらしい。

で、反応しないのは物凄くマズイらしい。

う~ん、これはちょっとキツいかも。

 

第4章 好きなものを 貶されたくない人たち

見たいものだけを見たいって?

好きなものだけつまみ食い?

見たい展開だけを見たい、心を揺さぶられたくないって?

なにそれ? そこに心の豊かさはある? 自分の成長はある? ・・・なんて考えるのは余裕のあった世代だから、らしい。

ストレスから自分の身を守る行動らしい。

わからなくもない・・・わかる気がする。

求められることが多すぎる、やらなくちゃならないことが多すぎる時代。

私が1961年生まれじゃなくて2001年生まれだったら、同様の行動を取ってるかも。

そうすることによって自分を守ると思う。

真面目に全てをこなそうとしたら、たぶん壊れてしまう。

だったら逃げたっていいよね?

非難されることじゃないよね?

 

第5章 無関心なお客様たち

コンテンツの制作者たちも、結局のところ時代に合わせていくしかないのだなあ。

(ここまで読むと、「映画」ではなく「コンテンツ」という言葉が自然と出て来るようになってる。)

倍速視聴機能の装備とかサブスクの問題とか、何が先なんだか、何がニワトリで何がタマゴなんだかわからないけど。

とにかく、観る側は変わってしまった、というのが現実。

よいか悪いか、そんなことを言っても仕方がない。

これが現状。

戻ることは、たぶん、ない。

 

・・・こんな具合に、この本を読み終わる頃には私自身も変化。

「現状を憂える還暦過ぎのオバサン」から「現実を見せられて戸惑う一人の人間」へ。

これから一体どうなっていくんだろう?

怖くもあり、興味深くもあり。

このテーマは引き続き追っていくことになりそうです。

 

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