最近、複数の老人ホームから相次いで「入居者様のマイナンバーカードはお預かりできません」とのお知らせがありました。
あ、なんのこっちゃ、ですよねえ。
ご説明しましょう。
私の立場は「成年後見人」です。
法律系の士業ですが、「専門職後見人」として活動しているのです。
いろいろな方を担当していますが、認知症の高齢者が多いです。
老人ホームに入居される場合には、法定代理人として、ご本人のかわりに契約を行います。
老人ホーム関連費用の支払いなども、抜かりなく行います。
(引落しで対応できる場合が殆どなので、それほど大変ではありませんが。)
重要な物は、ご本人にかわって保管しています。
通帳とか保険証券とか。
例外もあって、健康保険証は老人ホームに預けています。
急な体調不良で病院受診となった場合、同行できずにホームの職員さんに対応していただくことがあるため、保険証を預けておく必要があるのです。
決して「重要な物の管理全般を老人ホームに委ねている」ワケではないのです。
それは成年後見人の場合だけでなく、ご家族の場合も同じだと思います。
ホームの役目は「生活の場や介護の提供」であって、「財産管理や事務処理の代行」ではありませんから。
なので、そもそも「マイナンバーカードを老人ホームが預かる」はあり得ない話なのです。
(契約で「重要な物の管理」を引き受けているならば話は変わってきますが、ここではそういった特別な場合は考えず、一般的な、通常の場合を想定しています。)
おかしなことになったのは、「健康保険証はマイナ保険証へ移行し、現行の保険証は廃止する」ことになったため。
老人ホームのスタッフの方々も、ご家族の方々も、混乱に陥ってしまったのですねえ。
「マイナンバーカードをホームが預かることはあり得ない」のに、「健康保険証はホームに預けておく必要がある」のですから。
パニックになったご家族から、私のところへも相談がありました。
「父のマイナンバーカード作らなきゃいけないんですよね? 寝たきりなのに? 一体どうやって?」みたいに。
この方は「マイナンバーカードをホームへ預けること」の問題には思い至らず、ただただ「今の保険証が廃止される、急いでマイナ保険証を手に入れなければ!」で頭がいっぱいのご様子でした。
老人ホーム側の困惑も目に見えるようです。
「マイナ保険証? つまりはマイナンバーカードだよね? そんな大事な物を預かることになるの? どうやって管理するの? 責任重すぎる!!」と。
で、あちこちの老人ホームで検討が行われて、結果、冒頭のように「入居者様のマイナンバーカードはお預かりできません」というお知らせとなったワケですね。
ここからは、認知症高齢者などに関わる方々へ向けて「じゃあ一体どうなるの? どうすればいいの?」というお話。
実は、「当面、何もしなくてもよい」が結論なのです。
そもそもマイナンバーカードの取得は任意です。
適切な写真を撮ったり、窓口に出向いたりすることが難しい場合には、無理に取得しなくてもよいのです。
私が成年後見人として担当している方々で、マイナンバーカードを取得した方は一人もいません。
皆さん、「マイナンバーカードの取得は事実上ムリ」な状況ですので。
今のところ、それで特に不利益はないです。
「現行の保険証廃止!」には、私も一瞬緊張しましたが、結局のところ「資格確認書」が(申請しなくても)交付されることになりましたし。
その資格確認書をホームへ預ければよいのですから、これまでと大して変わりはありません。
「当面はOKでも、将来的にはどうなるの?」とご心配な方もおられると思いますが、それほど心配しなくてもよいのでは、と考えてます。
デジタル社会に向けての理念がどうあれ、実際に「マイナンバーカードの取得は事実上ムリ」な人は存在するのですし、「健康保険の資格を証明できて、かつマイナンバーとは切り離されたもの」を老人ホームへ預けておく必要性はなくならないでしょうし。
一定数の国民の現実がそうである以上、一律に切り捨てられてしまうことはないだろう、と考えてます。
もちろん今後の動向はきちんと把握して、必要に応じた対応をしていくつもりです。
★こちらの記事もどうぞ