三浦しをん「舟を編む」を読みましたので、感想などをメモしておきます。
ネタバレになる部分がありますので、未読の方はご注意ください。
映画を先に観ました。
で、これは原作も読まなくっちゃ、と思った次第。
原作も良かった!
・・・って、そもそも「原作はツマラナイけど映画にしたら面白くなった」というパターンは存在しないと思うけど。
原作が面白いからこそ、「映画化しよう!」と考える人が出て来るワケで。
馬締光也。
最近観た映画・読んだ小説の主人公の中で、いちばん好きな人物です。
何でかなあ、と考えてみたのだけど。
たぶん、「コミュニケーション能力偏重」の風潮への違和感から来てるのかなあ、と。
コミュニケーション能力に欠ける馬締が、その点を無理に矯正することなく、辞書作りの能力を発揮して活躍する、その姿を好ましく感じるのだと思うのです。
しかも、自分を偽ることなく、そのままのキャラクターで体当たりして、素敵な伴侶も手に入れてしまうのです。
私も、対人関係面での能力が低い人間なので、つい応援したくなる。
現実にはこんなにうまくハマったりはしないんだよなあ、と思いつつも、馬締の快進撃が心地よいのです。
この作品は、2009年から2011年にかけて女性ファッション誌CLASSYに連載されたものだとのこと。
オシャレな雑誌の読者たちにマジメ君は受け入れられたんだろうか?
その後、単行本になったワケだから、人気はあったのでしょうねえ。
若い女性たちの中にも、私と同じような気分になった人たちがいた、ってことなのでしょう。
新たに辞書編集部に加わった岸辺が、香具矢が馬締の配偶者だと知って仰天する場面。
映画でも原作でも、大好きな場面です。
「びっくりしたでしょ? 信じられないでしょ? でも本当のことなんだよ!!」と自慢したくなります。
自分のことじゃないんだけど(笑)。
この二人がお似合いのカップルなのだ、ということはきちんと描写されています。
タケおばあさんから、香具矢の以前の交際相手とのことを聞いたときの馬締のセリフ。
「以前の交際相手のかたも、永遠に海外赴任しているわけではないのでしょう? 本当に香具矢さんと結婚したいのなら、そのあいだは別居婚にするとか、結婚自体を少しさきのばしにするとか、いくらでもやりようはあったんだ」。
このセリフには馬締の良さが出てるなあ、と思います。
「俺の海外赴任についてこい!」的な、悪い意味で「男らしい」発想は全く持っていないのですねえ。
香具矢の方も面白くて。
自分といっしょにいるのに、いきなり言葉や辞書の世界へ入り込んでしまった馬締に対して、咎めることなく笑顔で「考えごとは終わった?」なのです。
「私と仕事、どっちが大事なの?」的な、悪い意味で「女らしい」発想がないのですね。
二人は結婚して、馬締は辞書編纂ひとすじ。
香具矢は板前として独り立ちして自分の店を持つ。
自分も相手も殺さずに共存していける関係。
たまたま香具矢が美人であるため、周囲は「え~っ!?」と思うのだけど、やっぱり良い組み合わせなのだよなあ、と納得なのです。
そうそう、「言葉」についての馬締の思考が大量に出て来ます。
これが楽しくて。
実は私、大学での専攻は言語学でした。
(40年も前のことですけど。)
なので余計に楽しくて。
この部分は映画では十分には伝わらないです。
この点は、映像での表現には限界があって、仕方がないと思います。
そのかわり、映画では「早雲荘」や「玄武書房別館」の映像が素晴らしいです!
映画も原作も、とちらもオススメです。
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