成見和子のブログ

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帚木蓬生【アヒルおばさん】(『風花病棟』収録)

帚木蓬生「アヒルおばさん」について、断片的ですが感想などを。

ネタバレになる部分がありますので、未読の方はご注意を。

 

★語り手の「わたし」は真面目で優しくて熱意のある女性の研修医。「真面目で優しくて熱意がある」とはどこにも書いていないけど。読み進むにつれてわかってくる。いいお医者さんになっていくんだろうなあ、という感じ。

 

★冒頭の焼き芋屋のエピソード、いいなあ。いつもそこにいて欠かせない人物。要所要所で物語に絡んでくるのだけど、その絡み方がまたイイ。

 

★「アヒルおばさん」は研修医の女3人の噂話の形で登場する。いつも病院近くの公園にいる、歩き方がアヒルそっくり、裸足、何を訊かれても<グワッ、グワッ>としか言わない・・・なんじゃそりゃ? と読者を一気に引き込む。

 

★<グワッ、グワッ>の意味するところは最後まで明確には説明されない。私は「答えたくない、答えません」という意思表示なのだ、という理解をしたのだが、どうだろう? 間違ってるかな?

 

★訳ありの患者が次々に登場して、「わたし」の女性医師ならではの関わりで背景がいろいろと見えて来る。重いエピソードが続くが、不思議と嫌な気分にはならない。(嫌な気分になる人もいるかもしれない。)

 

★患者から話を引き出すのが上手な「わたし」でも、結局アヒルおばさんの抱える事情は明らかにならなかった。娘がいる(いた?)ということがわかった程度。

 

★保険証のない患者の医療費に関するエピソードがリアルだ。でも、小さな摩擦はあれ、結果として受け入れられて治療を受けることが出来て・・・という展開にとても救いを感じる。

 

★指導医の存在がとても効果的。発言内容に一貫性がなかったりするが、コイツも基本的にいい医者なんだろうなあ、という感じ。アヒルおばさんに話を聞こうとして「グワッとやられました。」のところで笑ってしまった。

 

★それにしても、アヒルおばさん、一体どんな人生を送ってきたのだろう。いろいろと尋ねてみたいが、「わたし」と同じく読者も「踏み込めない、踏み込んだらいけない」という気持ちになる。

 

★「わたし」がプレゼントしたカーネーションは、アヒルおばさんが毎日水切りして短くなりながら退院まで瑞々しかった・・・63歳という年齢からすると、アヒルおばさんの娘と「わたし」は同じ年頃なのでは? などと想像してしまった。

 

★ラストの電話のシーンがいい。女3人のロッカールームでの話題から始まったストーリーは、女3人の電話で幕を閉じる。彼女たちにも読者にも暖かい気持ちを残して。

 

短編集「風花病棟」に収録されています。

この作品以外も、どれも絶品。

よく「珠玉」という言葉が使われるけど、まさにそう。

何度も読み返したくなる作品ばかりです。

 

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