成見和子のブログ

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大竹文雄・平井啓(編著)【医療現場の行動経済学】

副題は「すれ違う医者と患者」。

医者は丁寧に精一杯の説明を尽くしたつもり。

そして患者の合理的な判断を待つはずが・・・

ワケのわからない不合理な選択や判断の先延ばしに直面することになる。

自分の話の趣旨が全く伝わっていないらしい。

なぜだ? 自分の説明に問題があるのか?

いや、そんなはずはない。

そんなはずはないのだが・・・

・・・こんなことが日々あちこちで起きていて、悩めるお医者さんたちが多かったのだろう。

そうこうするうちに一部のお医者さんが「患者さんたちの不合理な行動にはパターンがある」ということに気づく。

そして、その不合理な行動にはそれなりの理由があるらしい。

これは「行動経済学」で読み解くことが可能なのではないか?

よし、やってみよう!

・・・というのがこの本。

私は、行動経済学について、ある程度の知識があった。

だからこそ、この本のタイトルが目に止まって、手に取ることになった。

そうでない人にとってはどうだろう。

読んでみよう、という気になるかどうかは微妙なところ。

でも、ぜひ読んでみて! と思う。

むしろ、医療の世界の実例から入ることで「なるほど!」となって、行動経済学の世界にうまく入れるのではないかなあ、という気がする。

日頃「医者はわかってくれない! なんであんなに冷たい対応をするんだ!」と憤っていた人が、「ああ、自分の考えにはバイアスがかかっていたのか・・・」と気がつくことになるだろうと思う。

あまり気持ちのよい体験じゃないかも、だけど。

もちろん、この本は患者側を一方的に批判しているワケではない。

医者の側にも内省を促している。

第10章の「なぜ一度始めた人工呼吸管理はやめられないのか」が興味深かった。

我々一般人は、漠然と「生命維持治療を差し控えることは許されるが、いったん開始した生命維持治療を中止することは許されない」と思っている。

(少なくとも私はそういう理解をしていた。)

お医者さんたちも同じらしい。

しかし、この本では「本当にそうなのか? 何かバイアスがかかっているせいで、そう思い込んでいるのではないか?」と問いかける。

そうか、お医者さんたちも合理的な思考ができないことがあるのかあ、と新鮮な驚きだった。

いい本だ。

ただし、ちょっとお高い。

2,640円です。

でも、それだけの価値はあると思う。