2022年11月17日、東京地裁で注目の判決がありました。
映画を無断で10分ほどに編集して公開する「ファスト映画」の投稿者2人に5億円の賠償を命じたものです。
映画会社などの著作権を侵害して、その結果損害を与えたので、その損害を賠償するよう命じられた、ということなのですが・・・
この「著作権」が難しいのですよねえ・・・。
私は法律系の士業ですが、著作権は専門ではありません。
でも、こうやってブログを書いて公開している以上、著作権に無関心でいることはできませんから、いろいろと勉強してます。
そんな中で、今回の件に関しては「フリーライド、ただ乗りは許されない」という視点で理解するのがよいのかな、と考えています。
「著作権法」を読んでみたこと、ありますでしょうか?
「読む」以前に、ちょっと見ただけでも、めまいがすると思います。
それだけややこしい法律だ、ってこと。
でも、これだけは読んでみて欲しいなあ、という条文があります。
↓↓↓これです。
(目的)
第一条 この法律は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送に関し著作者の権利及びこれに隣接する権利を定め、これらの文化的所産の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もつて文化の発展に寄与することを目的とする。
いかがでしょう。
法律のいちばん最初に「目的」を掲げることは多いのですが、まさにそれですよね。
極めてまっとうなことが書いてあります。
このあとに「著作物とは何か」とか、「著作者の権利の内容」とか、「著作権が制限される場合」といったことが、ずらずら~、っと続いていくのです。
でも、結局のところ全部が、第一条に書かれた目的を達成するための規定なのです。
第一条をじ~っくりと読んでみてくださいませ。
「著作者には権利を認めて保護するけれど、文化の発展のためには権利を制限する場合もある」と読めますよね。
この「権利を制限する場合」が、例えば「私的使用のためには複製してもよい」とか「営利を目的としない上演は許される」といったことなのです。
でも、おそろしく細かい規定がされているので、「結局のところ、この場合はどうなのよ!」と叫びたくなってしまいます。
結局、条文だけではわからずに、これまでの裁判例を引っ張り出して検討しなくちゃならなくなったりもするのです・・・。
挙げ句の果てに、「弁護士さんによって見解が違う!」なんてことも。
なので、素人としては、細部にはあまり深入りせずに「著作権法の根本にある考え方、精神」をおおまかに捉える方がよいのでは、と思うのです。
その「考え方」の一つが「フリーライドを許さない」ということだと思います。
(この「フリーライド」という言葉は、分野によっては厳密な定義がなされて使われることもあるようですが、ここでは「ただ乗り」という一般的な意味で使っています。)
フリーライド、ただ乗りを許さない、その視点で見ると「本当にそのとおり!」と言えるのが今回の判決。
映画を加工して動画を作成してユーチューブに公開して広告収入を得る。
自分で手間はかけているのですが、何といっても素材が他人のもの。
まさにただ乗り!! ですよね。
どこから見てもアウトでしょ!! の世界です。
ただ・・・
ここまでわかりやすい例ばかりじゃないよなあ、という気もするのです。
誰もがネットを使うようになり、「発信することそのもの」のハードルは下がりましたが、「注目を集めること」の争いは熾烈です。
そんな中で「人気のある他人のコンテンツを利用しよう」と考えてしまう人が出てくるのは必然なのかも、という気がします。
自分でも気がつかずに違法の領域へ踏み込んでしまう人もいそうです。
例えばブログでも。
人気の楽曲の歌詞を載せれば閲覧数がアップして広告収入が得られるかも、みたいに。
そんな時には「その行為は他人の権利にただ乗りするものではないか?」と考えてみるとよいと思います。
「この行為は著作権侵害になるか?」と考えて調べ始めたりすると迷路にはまりがち。
ネット上の情報は正しいとは限りませんし。
それよりも「この行為にはフリーライド的な面が含まれていないか?」とじっくり考えてみる方が効果的なのでは、と思うのです。
ネット上のコンテンツを消費する側も同じ。
「自分が閲覧しようとしているこの動画は違法か?」が明確にはわからなくても、「このコンテンツは他人の権利にただ乗りして自分の利益を得ているのではないか?」と考えてみれば、「見るのはやめておこう」という判断ができると思います。
ところで。
今回の判決では「賠償5億円」も話題になりました。
民事裁判では「権利の侵害があった」というだけでは賠償を命じられることにはなりません。
「権利の侵害の結果損害が生じた。その損害額は○○円である。」ということを原告側が立証しなくてはならないのです。
著作権侵害の場合には、著作権法114条に損害の額の推定等についての規定がありますので、全くゼロからの立証ではないのですが、それでもなかなか大変なことです。
今回の原告は「大手映画会社など13社」だそうです。
いわば業界総力戦、ってことですね。
だからこそ出来た、とも言えそうです。
だったら、それほど力のない相手だったら権利を侵害しても訴えて来ないだろう・・・という発想はダメです。
実は、今回の被告は刑事裁判でも著作権法違反で有罪になっています。
刑事では「損害が出たかどうか」は関係ありません。
違反行為を行えば、それだけで罪に問われる可能性があるのです。
この点をしっかり理解しておく必要があると思います。
ちょっと話は変わるのですが。
「ファスト映画」がはびこった背景の一つとして、「若いひとたちのタイムパフォーマンスの重視」が挙げられることがあるようです。
いわゆる「タイパ」というやつ。
私にはこれがさっぱり理解できません。
還暦過ぎのバアサンにはわかりませ~~ん! なのです。。。