今日の歌詞解説は It's Only A Paper Moon (イッツ・オンリー・ア・ペーパー・ムーン)です。
早速いきましょう。
【 Say, it's only a paper moon sailing over a cardboard sea 】
say はもともと「言う」という意味の動詞ですが、ここでは間投詞として用いられています。
間投詞、interjection は辞書では interj や int という略語で記載されています。
「ねえ、ほら、おい、ちょっと、あのね」といった意味です。
it's only a paper moon は「それはただの紙の月にすぎない」ですね。
この paper は形容詞で、「紙(ボール紙)製の、張り子で作った」という意味です。
paper moon は何か特別のものではなくて、そのまま「紙製のお月さま」ということ。
写真の背景なんかにするセットのことのようです。
sailing は、動詞 sail に ing がくっついたもの。現在分詞です。
分詞は、動詞と形容詞の性質を兼ねたものです。
ここでは sailing over a cardboard sea が形容詞的に paper moon を修飾しているのです。
cardboard は「厚紙、板紙、ボール紙、段ボール」。
海も紙で作られているのですね。
sail は「船が走る、航海する」というイメージが強い動詞ですが、「月や雲が浮かぶ、浮動する」という意味もあるようです。
文全体で「あのね、それは段ボールの海の上に浮かんでる単なる紙の月だよ」ということになりますね。
【 But it wouldn't be make-believe if you believed in me 】
この文は「仮定法過去」の形です。
動詞・助動詞が過去形になっています。
そのため「仮定法過去」と呼ばれるようなのですが、過去のことを述べているワケではありません。
単なる仮定ではなくて、「現在の事実の反対の仮定」や「可能性の乏しい想像」を表して、「もしも~だったとしたら~だろうに」という意味になります。
make-believe はこれで一つの単語(名詞)になっています。
手元の辞書にも独立した項目として載っています。
「見せかけ、偽り、まねごと」という意味です。
動詞 believed のあとに in がくっついているのが、ちょっと見慣れない感じですね。
実はこの believe は自動詞です。
他動詞の believe は単純な「信じる」です。
I believe you ならば「あなた(の言うこと)を信じる」ということになりますね。
それに対して自動詞の believe は少し意味合いが違うようです。
辞書には「信じる、信頼する、存在を信じる、信条とする、信仰する」といった訳語が並んでいます。
前置詞はどの場合でも in が使われるようです。
自動詞の場合、「信じるという態度を取る主体」に焦点がある、という気がします。
信じる対象も「単なる事実」というよりは「人格全て、存在そのもの、考え方、信条、究極的には宗教」といったもののように思います。
なので、I believe in you となると、「あなたの言っていることが事実であると信じる」ではなくて、「あなたという人格全てを信頼する」というニュアンスになるように思います。
この文の if you believed in me は「もしもあなたが私を人として、全体として、信頼してくれるならば」、つまり「愛してくれるならば」という意味になるのではないかなあ、と思うのです。
・・・あれこれと書いてしまいましたが、この文全体で「もしもあなたが私を信じてくれるなら、それ(紙の月)は見せかけではなくなるだろうに」ということになりますね。
【 Yes, it's only a canvas sky hanging over a muslin tree 】
「そう、それは単なる、モスリンの木の上にぶら下がるキャンバスの空にすぎない」ですね。
canvas は「帆布、ズック、キャンバス」。
muslin は「モスリン」。
どちらも布の名前です。
「モスリン」は馴染みのない方にはイメージしにくいと思いますが、キャンバスとは違って薄くて柔らかい生地です。
キャンバス地やモスリン生地で空や木が作られているのでしょうか。
それともキャンバス地やモスリン生地の上に空や木が描かれて、舞台の背景のようになっているのでしょうか。
そのあたりは判然としないです。
【 But it wouldn't be make-believe if you believed in me 】
さきほど長々と解説したとおりです。
【 Without your love it's a honky-tonk parade 】
「あなたの愛がなければ、それはホンキートンクのパレードだ」。
honky-tonk は、もともとアメリカの安酒場のことのようです。
その後、そこで演奏される音楽のことも指すようになったようです。
手元の辞書には①「安キャバレーで弾くようなラグタイム音楽、わざと安っぽい音の出るピアノで演奏する」、②「ギター・ヴァイオリン・ヴォーカルなどを伴うカントリーミュージック」とあります。
ここでは「パレード」なのですから、②の方かなあ、という気がします。
【 Without your love it's a melody played in a penny arcade 】
「あなたの愛がなければ、それは娯楽アーケードで流れてる音楽だ」。
played は、動詞 play に ed がくっついた過去分詞です。
「過去」の意味があるワケではなく、played in a penny arcade 全体で、形容詞として melody を修飾しているのです。
penny arcade は、コインで遊びやゲームが楽しめる娯楽アーケード、ゲームセンター、だとのこと。
この歌が作られたのは1933年ですから、その頃の「 penny arcade 」をイメージしてみる必要がありますね。
そこで流れてる音楽も、さっきの「ホンキートンク」と同様、騒がしいだけで、心に沁みたりするようなものではない、ということですね。
【 It's a Barnum and Baily world just as phony as it can be 】
Barnum と Baily はどちらも人名だそうです。
Barnum & Baily Circus を成功させた興行師、サーカス王だとのこと。
つまり、Burnum and Baily world は「バーナム・アンド・ベイリー・サーカスの世界」ってことですね。
phony は「詐欺的な、疑わしい、うそくさい、にせの、みせかけだけの」。
as phony as it can be で「この上なく、これ以上ないくらいインチキくさい」という意味です。
全体で「これ以上ないぐらいインチキくさいバーナム&ベイリーサーカスの世界だ」ですね。
【 But it wouldn't be make-believe if you believed in me 】
同じ文の3回目の繰り返しですね。
最初の方で、この文は「仮定法過去」であり、単なる仮定ではなくて「現在の事実の反対の仮定」や「可能性の乏しい想像」を表すのだ、という説明をしました。
でも、文法からだけでは、主人公が全く愛を得られずにいるのか、一度は手にした愛を失ってしまったのか、それとも恋人と一時的に離れてしまっているだけなのかは分からないですよね。
ヴァースがあれば、この点についてヒントが得られるのだけど・・・と思って、あれこれと聴いてみました。
そしたら、ナタリー・コールがヴァースから歌っているものを発見。
それによると、ヴァースは「今はここにいない恋人」をイメージさせるものでした。
ここではヴァースの解説はしませんが、ご興味のある方はぜひ聴いてみてください。
ここからはちょっと蛇足かも、なのだけど・・・
この歌詞を素直に読むと、主人公が縁日かサーカスみたいな場所にいて、嘘っぽい作り物を眺めたり安っぽい音楽を聞いたりしてる様子が想像できますよね。
で、あなたが私を信じてくれたら、これ全部が本物になるのになあ、と思ってる。
でも、違う読み方も可能かなあ、と。
今主人公はひとりでいて、そばには恋人がいない。
そしたら何だかいつもの景色が安っぽいサーカスみたいに感じられる。
あなたがそばにいてくれたら、この妙な世界はいつもの姿を取り戻すだろうに、と思ってる。
もしかしたら思いっきり的外れなのかもしれないけれど、何だかそんな歌のようにも感じるのです。
あ、これはあくまでも私の個人的な深読み。
聞き流していただければ。
以上、参考になりましたら幸いです。
著作権の関係上、ここでは解説以上に踏み込んだ翻訳・和訳をすることはできません。
皆様それぞれに試みていただければ、と思います。
/// Words by Billy Rose, E.Y.Harburg///
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