今日の歌詞解説は But Not For Me (バット・ノット・フォー・ミー)。
いろいろと調べていて、あまり歌われない2コーラス目が存在すると知りました。
内容が面白いので取り上げようと思ったのですが、歌手によって微妙に歌詞が異なっていまして。
ビリー・ホリデイが歌っているのを採用することにしました。
ヴァースは比較的よく歌われるようで、こちらは歌手によって違いはないようです。
では早速いきましょう。
(ヴァース)
【 Old man sunshine, listen, you! 】
sunshine は「日光、陽光」。
old man は「おやじ、旦那、ボス、隊長」といった意味です。
old man sunshine で「日光のダンナ」、「太陽オヤジ」みたいな感じでしょうか・・・ちょっと違うか。。。
擬人化されているのですね。
明るく光り輝くものの象徴、ってことでしょう。
listen, you! と呼びかけています。
「聞きなさいよ、あんた!」ってことですね。
先取りしてしまいますが、この歌は失恋の歌です。
辛い状況にいる主人公は、明るく輝くものに対して文句を言いたいのです。
【 Never tell me "Dreams come true!" 】
文句が炸裂です。
「『夢はかなう!』なんて言うんじゃないわよ!」という感じでしょうか。
【 Just try it, and I'll start a riot 】
just try it は命令文で「それを試みなさい」。
前の文を受けて「『夢はかなう』とか言ってみなさいよ!」と挑発しているのですね。
and I'll start a riot は「そしたら私は暴動を始めます」。
命令文+and の形で、条件文と同じ意味を表します。
「もしもあなたがそれを試みるなら、私は暴動を始めるでしょう」、つまり「やってみなさいよ、そしたら暴動を起こしてやるからね」といった意味になるのです。
riot は「暴動、一揆、騒動」。
「感情の激発、ほとばしり」という意味もあって、ここではそっちかな、と思うものの、何だか「暴動を起こしてやる!」と訳してみたくなります。
もしくは、「キレてやる!」というのも、イマドキな感じでよいかも。
【 Beatrice Fairfax, don't you dare ever tell me "He will care" 】
「Beatrice Fairfax」という固有名詞がイキナリ登場します。
あ、でも「イキナリ」という評価は誤りですよね。
この歌が作られたのは1930年。
つまり・・・90年以上前なのです!
現在から見て「何のこっちゃ?」なことでも、当時の人たちにとってはアタリマエに通じる話だった、ということです。
調べてみたところ、「Dear Beatrice Fairfax」という新聞コラムがあったとのこと。
たぶん人生相談のような内容だったのだと思います。
Beatrice Fairfax は、その回答者の名前。
実在の人物ではなく、担当したライターが作ったキャラクターのようです。
想像ですが、「きっとうまくいくわよ!」的な回答が多かったのでは。
で、この歌の主人公は「ベアトリス・フェアファクス、『彼はきっと振り向いてくれるわよ』なんてこと言うんじゃないわよ!」と噛みついてる、ということでしょう。
don't 以下は命令文です。
命令文は普通は主語が省略されますが、ここでは「you」が入っています。
強調されているのです。
手元の文法書に、命令文の中で主語 you が表現される場合として「相手に対するいらだちを表したり・・・」と書かれていますが、まさにそれだと思います。
dare は「あえて~する、恐れずに~する、生意気にも~する」。
ever は don't とセットで「決して~ない」という否定の意味になります。
「決して~しないように!」という強い命令を表しているのでしょう。
care は「気にかける、関心を持つ、愛する」。
【 I'm certain it's the final curtain 】
certain のあとに that が省略されています。
certain は「確信している」という形容詞です。
I'm certain that ~ で「~ということは確かだと思う」。
curtain はもちろん「カーテン」ですが、「(劇場の)幕」という意味もあって、さらに「終演」という意味にもなります。
「カーテンコール」って言いますよね。
文全体で「これが最後の幕だとわかっている」ですね。
【 I never want to hear from any cheerful Pollyannas who tell you fate supplies a mate 】
また固有名詞が出てきました。
「Pollyanna」は手元の辞書に載っていました。
ベストセラー小説の主人公だそうです。
いつも何かしら喜ぶべきことを見つける明朗で楽天的な少女、だそうな。
何と形容詞にもなっています。
Pollyannish 、「ポリアンナのような、底抜けに楽天的な」だそうです。
いやいや、形容詞にまでなっちゃうなんてスゴイですねえ~。
あ、脱線しました。
歌詞に戻りましょう。
ここでは「Pollyannas」と、複数形になっています。
「ポリアンナたち」もしくは「ポリアンナみたいなやつら」ということだと思います。
この文の who の前までの前半は「私は陽気なポリアンナたちの意見なんて絶対に聞きたくない」ということになります。
hear from ~ はいろんな意味があるようですが、ここでは「~から意見を聞く」といった意味だと思います。
who は関係代名詞で、who 以下が Pollyannas を修飾(説明)しています。
「運命が伴侶を与えてくれる、なんてことを言うポリアンナたち」ですね。
you のあとに that が省略されています。
who 以下の形容詞節の中に、さらに that 以下の名詞節が含まれる、という複雑な構造になっているのです。
【 It's all bananas! 】
bananas は名詞「banana」の複数形ではなく、形容詞「bananas」だと思われます。
主語は it、動詞は is で単数形ですので。
形容詞「bananas」は「気が狂って」という意味です。
文の意味は「そんなの全部おかしいわよ!」といったところでしょうか。
ここまでがヴァースです。
ずいぶん気合いを入れて解説してしまいました。
でも、このヴァース部分が、この歌の世界観をとてもよく表していると思うのです。
ここまでをしっかり読んでおくと、コーラスの内容が「腑に落ちる」感じになるのでは、と思います。
ではコーラスへ進みましょう。
(コーラス1)
【 They're writing songs of love 】
この they は具体的に誰かを指し示しているのではなく、漠然と「人々、世の中」のことを言っています。
文全体で「世の中で愛の歌はいろいろと書かれている」といった意味になります。
【 But not for me 】
「でも私のためではない」。
主語と動詞は省略されています。
前の文から考えると、元の形は but they are not for me なのかな、と思います。
「でも、それらは私のためじゃないのよね」ということでしょう。
【 A lucky star's above 】
「幸運の星が空にある」。
【 But not for me 】
it is が省略されていると考えられます。
「でも、それ(幸運の星)は私のためのものではない」ということですね。
【 With love to lead the way I've found more clouds of gray than any Russian play could guarantee 】
lead the way は「先頭に立つ、道案内する、先導する」。
with love to lead the way は「道案内する愛とともに」、もっとわかりやすく表現すると「愛を頼りに」ということでしょう。
「to 不定詞」という形で、to lead the way が love を修飾しているのです。
I've found more clouds of gray は「私はもっとたくさんの灰色の雲を発見した」。
愛を頼りに進んで来たけれど、さらなる暗雲しか見えてこない・・・ということですね。
この文は長くて、さらに続きます。
more ... than ~ という形になっていて、「どんなロシア演劇が約束するよりも、もっとたくさんの暗い雲」だというのです。
guarantee は「請け合う、保証する、約束する」。
Russian play がどんなものなのか、ロシア演劇が暗いものばかりなのか、私にはよくわかりませんが、たとえばチェーホフなどかなあ。。。
【 I was a fool to fall and get that way 】
「fall して get that way した私は馬鹿だった」。
to 以下は不定詞で、fool を修飾しています。
「私は、 fall して get that way した馬鹿だった」という方が正確ですね。
fall の意味は難しいです。
落ちる? 転ぶ? 堕落する? (誘惑などに)屈する?
fall in love と同じ意味だと考えてしまってもよいかもしれません。
get that way も難しいです。
「あんなふうになってしまう」といった意味じゃないかなあ、と思うのですが。
【 Heigh-ho! Alas! 】
heigh-ho は辞書によると「あーあ、やれやれ、エエーッ、ヒャッホー、ソレッ」だそうな。
つまり、良い場合にも悪い場合にも使われる感情表現、ということ。
ここではもちろん、良くない意味ですね。
alas の方は良くない場合限定のようです。
【 And also, lackaday! 】
lackaday は辞書によると「ああ悲しい、悲しいかな」。
古い言葉のようです。
嘆きの言葉3連発ですねえ。
【 Although I can't dismiss the memory of his kiss, I guess he's not for me 】
although I can't dismiss the memory of his kiss は「私は彼のキスの記憶を追い払うことはできないけれど」。
I guess he's not for me は「彼は私のものではないのだと思う」。
dismiss は「解雇する、放逐する、退散させる」。
目的語が memory だと「頭から追い払う」というニュアンスかなあ、と思います。
ここまでが1コーラスめ。
ここから先は「聴いたことない」という方も多いと思います。
(コーラス2)
【 He's knocking on a door 】
「彼がドアをノックしている」ですね。
【 But not for me 】
前の文を受けて、「でもそのノックは私に向けたものではない」と言っています。
【 He'll plan a two-by-four 】
「彼はツーバイフォーの図面を書くだろう」って?
何のこっちゃ、ですよね。
two-by-four は「ツーバイフォー工法」のことだと思います。
アメリカでは古くからある木造建築の工法のようです。
plan は「計画する、立案する」ですが、建築の場面では「設計図を書く、設計する」という意味になります。
ここでは、どちらで理解してもOKでしょう。
つまり「彼は(私ではない誰かと暮らすための)家を建てるだろう」ってことですね。
【 But not for me 】
彼が建てる家は私のためのものではない、ってことですね。
【 I know that love's a game 】
「恋愛はゲームだってことはわかっている」。
【 I'm puzzled just the same 】
just the same は「それでも、やはり」。
puzzle は「途方に暮れさせる、悩ます、当惑させる」。
恋愛はゲームなのだとわかっていても、それでもやっぱり・・・なのですねえ。
【 Was I the moth or flame? 】
moth は「蛾」。
flame は「炎」。
「私は蛾だったの? それとも(輝く光で蛾をおびき寄せる)炎だったの?」ということですね。
【 I'm all at sea 】
「私は(海の上にいるみたいに)全く途方に暮れている」。
at sea は「(陸地の見えない)海上に」ということ。
そこから、口語で「途方に暮れている」という意味に使われます。
和訳をするとしたら、何とか「海」のニュアンスを生かしたいところですね。
【 It all began so well 】
「全ていい感じで始まった」。
【 But what an end! 】
「それなのに、何という結末!」
【 This is the time a feller needs a friend 】
feller は fellow のくだけた言い方です。
time のあとに関係副詞 when (または that )が省略されています。
「これは人が友達を必要とする時である」ですね。
【 When every happy plot ends with the marriage knot, and there's no knot for me 】
この when は、単純に「~の時」というよりは「~だというのに」という意味合いだと思います。
後半の there's ~ の前に and が入っているのが???な感じですね。
これ、実は And there's no ~ , when ~ が本来の形で、倒置になっているのではないか? と考えるとスッキリと腑に落ちます。
そう考えると when が「~だというのに」という意味合いだ、と理解しやすいです。
なんでそんな倒置が行われるのか? というと、最後に knot for me というフレーズを持って来たかったからではないでしょうか。
not for me と knot for me をかけてるのですね。
発音が全く同じですので。
全体で「全ての幸せな筋書きは結婚という絆で終わるのに、私には何の絆もない」という意味になります。
knot は「結び、結び目、縁、絆」です。
以上、参考になりましたら幸いです。
著作権の関係上、ここでは解説以上に踏み込んだ翻訳・和訳をすることはできません。
皆様それぞれに試みていただければ、と思います。
/// Words by Ira Gershwin///
★こちらの記事もどうぞ