今日の法律用語解説は「行為能力」です。
早速いきましょう。
法律用語がわかりにくい原因のひとつに「日常語としての意味に引っ張られる」ということがあります。
この「行為能力」という法律用語が典型だと思います。
「行為」も「能力」も日常的に使われる言葉で、しかも、難しくはない言葉です。
だからこそ、理解のズレが生じて混乱が起きるのだと思います。
「契約などの法律行為の場面では、行為能力の有無が問題となる」という文。
この文を読んで、何を言っていると感じますか?
「その契約の内容を理解して、問題なく契約をする能力が必要である」といった意味にとらえる方が多いのではないでしょうか。
そして、その「能力」とは、「学力」だとか「知識」だとか「経験」などによって培われるもの、という理解をする方が多いのでは。
でも、法律用語の「行為能力」は、そういう意味ではないのです。
手元の法律用語辞典にはこう書いてあります。
【行為能力】法律行為を単独で行うことができる法律上の資格。
???ですよねえ・・・。
もう少しわかりやすく言うと「契約などの法律行為の世界に単独で参加できる資格」のことなのです。
重要なのは、「法律上の資格」だということ。
行為能力のあり・なしは法律で決められます。
日常生活での「能力がある・ない」、「能力が高い・低い」とは関係がないのです。
最もわかりやすい例は「未成年者」でしょう。
「未成年者がスマホの契約をする際には親の同意が必要」ってやつ。
これを言い換えると「未成年者は法律行為を単独で行うことができない」ということになります。
法律の世界では、未成年者のことを「制限行為能力者」と呼びます。
未成年者の法律行為には「法定代理人(親権者など)の同意が必要」という制限がかかっているから、です。
成人になると、この制限が外れます。
制限のない行為能力を手に入れて、単独法律行為デビュー! ってワケですね。
もうひとつ例を挙げておきましょう。
判断能力が低下した人に「成年後見人」がついていることがありますよね。
そのご本人のことを「成年被後見人」といいます。
この「成年被後見人」も「制限行為能力者」なのです。
民法9条には次のように書いてあります。
【成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。】
たとえば、「家を売る」なんていう契約書にサインしてしまったとしても、取り消せることになってるのです。
取消しは成年被後見人本人が行うことができますが、成年後見人が行うこともできます。
つまり、ご本人以外の力で契約がひっくり返ることがあるのです。
これは「法律行為の世界への単独での参加資格がない」ってことですよね。
行為能力に制限が加わっているのです。
ちょっと余談ですが、民法9条の後半部分にも注目してくださいませ。
日用品の購入などの日常生活に関する行為については取消しできない、とされています。
何でもかんでも制限するワケではない、制限の行き過ぎにならないように、ということなのです。
以上、今日は「行為能力」のお話でした。
参考になりましたら幸いです。