成見和子のブログ

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有間しのぶ【その女、ジルバ】

有間しのぶ「その女、ジルバ」を読みましたので感想などをメモしておきます。

ネタバレになる部分がありますので、未読の方はご注意ください。

 

全5巻のコミックです。

「有間しのぶ」という名前は「あかぼし俳句帖」の原作者として知っていました。

漫画の世界に詳しくない私は、有間しのぶさんのことを「俳句の世界の人」だとばかり思っていて、ご自身が「漫画家」だということは知らずにいたのです。

久しぶりに「あかぼし俳句帖」を読んで、原作者が気になって調べてみたら、とても評価の高い漫画家だと知って、代表作らしき「その女、ジルバ」を手に取りました。

実際には「手に取った」のではなく「ダウンロードした」のですけど(笑)

第1巻を読んだ時点で、これは私の好みだわ、と。

第2巻を読み終えた時点で、どうやらこれは傑作だわ、と。

大切に大切に、細かいところまで味わって読まなくては、と思ったものの、やっぱり止まらなくなって最後まで一気読み。

 

とにかく内容が濃いです。

登場人物がこんなに多いのに、一人一人の人物像がくっきりと立ち上がって来る感じ。

みんな個性的で、愛すべき人物ばかり。

主人公の笛吹新が「最も個性的ではない人物」だと言ってもいい、というぐらい。

主人公は、生きづらい時代に「じわっ」と苦しめられている平凡な女性です。

背景に「震災・福島」も抱えているけれど、直接苦労しているのは彼女自身ではなく弟一家や同級生たち。

そんな彼女が一歩を踏み出して、バー「OLD JACK & ROSE」で働き始めて、少しずつ変わっていく。

同時に、周囲の人々の人生の「聞き手・語り手」として物語をナビゲートしていきます。

実は主人公には「触媒」としての才能がある、そんな風にも読めます。

語らせて、癒やす・・・まさに天才ホステス? という感じ。

この物語が終わった後も、いずれこのバーを引継いで「伝説のママ」になっていくのだろうなあ、と思わせます。

 

もう一人の主人公とも言える初代ママ「ジルバ」は、「時代と状況に激しく翻弄された人物」です。

もともとは普通の、平凡な女性だったのでは、と感じられる描写があちこちにあります。

「時代と状況」というのは、ブラジル移民が置かれた状況のこと。

作品中ではマスターの語りなどを通して解説がなされます。

加えて、「仇」であるジルバの義兄のエピソードを通じて、ジルバたちが離れた後のブラジルの状況についても語られます。

第5巻の巻末に「参考資料一覧」があります。

作者がどれだけたくさん勉強してこの物語を構成したのか、よくわかります。

 

さらにもう一人の主人公、くじらママについては・・・

・・・あ、「主人公」だらけになってしまいましたね。

でも、これがこの作品の魅力かなあ、と思うのです。

みんな主人公。

それぞれの、かけがえのない人生。

 

くじらママの話に戻りましょう。

彼女の体験も壮絶です。

背景が「日本の戦中・戦後」なので、ジルバのケースよりもイメージがしやすいです。

くじらママが家族にも話せなかった過去を語る場面は圧巻です。

これはもう、「読んでみて」としか言えないです・・・。

 

こんな風に書いてくると、ものすごく深刻な悲劇一色のお話に思えるかもしれませんが、実はそんなことはなくて。

コメディ要素もたっぷりなのです。

細か~いところで「うふふ」と笑えます。

何度読んでも新しい発見があって楽しいです。

たぶんこれが、この作者の「作風」なのだろうなあ、と思います。

有間しのぶさんの他の作品も読んでみようと思ってます。