2019年11月に書いたものです。
別の場所に掲載し、その後非公開にしていました。
読み返してみたら懐かしくなったので、こちらへ再掲載します。
ネタバレになる部分がありますので未読の方はご注意ください。
【読書日記:メディシン・マン】語り手の人物造形が重要。
短編小説です。
語り手である「私」は精神科医。
大学の教室に在籍したのが十年、その後公立病院で十年、現在は民間精神病院の常勤医としてもうすぐ十年になる。
場面は一年に一回開催される同門会。
同期入局のAとの会話、写真撮影、大学病院の精神科の看護師長との会話、新任のI教授のスピーチ・・・と続いていく中で、「私」のキャラクターが明らかになっていきます。
教授選だとか病院長のポスト争いだとかとは無縁な人物。
「医師が処方する最良の薬は自分自身である」という言葉を大切にしている人物。
場面は懇親会へと移ります。
そこで声をかけてきたのが武田という若い後輩医師。
沖永良部島のTという患者を覚えているか、と。
「私」の記憶が甦ります。
ここからが物語の核心部分です。
ネタバレになってしまうので詳しくは書けませんが・・・
「Tが嘘を言っているかどうか決めて欲しい」という変わった依頼。
「イソミタール・インタヴュー」という方法を用いたTからの聴き取り。
そして作成された診断書。
・・・その診断書がTに幸せをもたらした、という事実が、25年の時を経て武田から告げられるのです。
この奇跡のような巡り合わせには、実は後輩医師武田のキャラクターも重要な役割を果たしています。
武田が民宿の宿帳の職業欄に、正直に、プライドを持って「精神科医」と書いたことから繋がるのです。
「イソミタール・インタヴュー」という禍々しくも感じられる素材が、涙を誘う短編に仕上がっているのは、「私」と「武田」の人物造形によるところが大きいと思います。
実は私、読んでいて泣いてしまいました、不覚にも。
短編集「風花病棟」には、この他にも魅力的な短編がたくさん収録されています。
おすすめです。
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