「悪人」観ましたので、断片的ですが感想など。
★導入部の不穏な空気はお見事。殺されることになる女、佳乃のイヤらしさは全開だし、祐一の「キレやすさ」みたいなものもうまく表現されている。
★祐一の家庭事情が明らかになる。孫を縛り付けて頼る身勝手な祖父母だ・・・。でも他にどうしろというのだろう? これが現実。たぶん日本のあちこちに、2022年の今でも存在する現実。
★祖母から事件の話を聞き、突然嘔吐する祐一がリアルだ。佳乃を手に掛けた感触が甦ったのだろうなあ。
★そこへ届いた光代からのメール、画面には「灯台」の文字が。誰かと繋がりたかった、と後に語る祐一だが、「灯台」の導きだったのだ、読むこともできそう。
★ホテルで光代にお金を渡す祐一。何てことを・・・だが、その意味は後に明らかになる。佳乃には金を要求されていたのだ。
★出会い系での佳乃との出会いは祐一を破滅させたが、同じ出会い系での光代との出会いが祐一の魂を救済することになる。
★祖母、悪徳商法にやられる。なんとまあ無知で愚かな・・・。でも責める気にはなれない。あれは将来の自分の姿だったかもしれない。
★増尾と佳乃の車内での会話。嫌なヤツ同士の会話の緊張感もすごいけれど、ここはそれだけじゃない。この時の会話と気分が、その直後の佳乃の祐一に対する言葉に結びついていく。事件の引き金はここにある、と言ってもいい。
★もっと早く光代に出会っていれば、という祐一の言葉が辛い。本当にそのとおりだ。佳乃に出会う前に光代に出会っていれば、どんなにか幸せな人生が開けたことだろう・・・。いや、そうじゃなくて、こんな極限状態だからこその光代との出会いだった、ってことか。
★事件の真相・・・不幸だ。これは不幸な巡り合わせだとしか言いようがない。
★現場を訪れる佳乃の父親。この場面以前は、佳乃に対して「嫌な女」だと感じていたが・・・彼女もまた誰かの娘、愛された家族だった。
★雨のシーンが多いなあ。
★祐一にとって「灯台」は母に捨てられた記憶と結びつくものだった。切ない。
★これまで生きてるかも死んでるかもよくわからなかった、という祐一の言葉は重い。光代に出会って初めて「生きる」を実感できたのだろう。と同時に押し寄せる罪の意識。光代に会わなければ一生罪に向き合うことはなかったのかもしれない。
★タクシー運転手の「人間のできることじゃなかですよ」が強烈だ。でも、その言葉を聞く光代は「祐一という人間」を知っている。その対比がまた強烈だ。観る者は光代に感情移入して「彼は悪人ではない」と言いたくなる。しかし、その場所には佳乃の父親もいる。安易にそんなことは言えない。
どうしようもない悲劇なのに、なぜか後味は悪くないです。
光代と出会わずに捕まったとしたら、祐一は罪に向き合うことなく一生を終えたかもしれない。
けれど光代に出会って祐一は変わった。
祐一の祖母も、佳乃の両親も、最後には前を向く。
増尾は変わらないけれど、彼の友人の一人には気持ちの変化が起きる。
良識ある人物も登場する。たとえば取材のレポーターたちを一喝したバスの運転手。
それにしても俳優陣の素晴らしいこと。
途中まで祐一役が妻夫木聡だとは気がつかなかった。
最後の最後までクズだった増尾は、何と岡田将生が演じてる!
深津絵里はもちろん、みなさん魂の演技、という感じ。
間違いなく名作だと思います。
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