面白かったのですが、最後まで気持ちが入り込めず、でした。
とてもよい小説だと思うのです。
自身がお医者さんでなければ絶対に書けない内容ですし。
原因ははっきりしていて、患者である小仲辰郎のような人物が猛烈に苦手なのです。
自分の「苦手」を小説の登場人物に投影してしまったら、そりゃあ入り込めるワケがないですよねえ・・・。
私は法律系の専門職です。
仕事上、小仲のような人物に遭遇することがあるのです・・・。
法律上無理のある主張を繰り返す。
なぜ無理なのか説明を試みると「先生は人の気持ちがわからないのですね!」と。
何とか気持ちに寄り添おうとすると「だったらなぜ助けてくれないんですか!!」と。
法律問題と命の問題は重さが違うでしょうし、「ああ、同じだなあ」と感じるのは不謹慎なのかもしれませんが。
あ、「同じだなあ」と感じるのは、描写が上手いからですよね。
その意味でも、よい小説だなあ、と思います。
でも、ラストにはやっぱり共感できなかった。
医者と患者の意識のズレの描写が見事です。
しかも、だれもが気になる「癌」のお話ですし。
読んでおけば必ず役に立つと思う。
「医者の側から見た話」は慎重に書かれています。
特定の立場に偏った見解にならないような配慮がなされています。
「がん難民」を特集したテレビ番組に対する評価は、タイプの異なる医長たちと研修医の会話の形で取り上げられる。
「治療の余地のない末期がん患者にどう説明するか」は同期の医師たちの会食の場で話題になる。それぞれの道に進んで今は背景の異なる医師たちの話として取り上げられるから、「これが正しい」という結論にはならない。
この小説に「結論」を求めてはいけないと思います。
何だかスッキリしない、という感想を持たれる方もいらっしゃるでしょうが、それでよいのだと思います。
もともと「誰にとっても当てはまる唯一の正解」など存在しない世界のお話なのですし。
いろんな問題・いろんな現実が詰め込まれていますから、そのひとつひとつを丁寧に読み取って自分なりに考えてみる、という読み方がおすすめです。