いい映画です。必見。
以下、断片的だけど感想など。
★ホーマー・ウェルズは孤児院から二度もらわれ、二度とも戻ってきた。一度目はなんと「返却・交換」。二度目はラーチ先生が養子先に乗り込んで取り戻した。
★そして三度目は、自らの意思で出て行ったホーマーが自らの意思で戻ってくる・・・というお話。それがこの映画。
★語りとセリフの意味の深さがすごい。原作者のジョン・アーヴィングが脚本を書いたとのこと。納得。
★新生児にラーチとホーマーが名前をつけるシーン。親から名前をつけてもらえなかった子供。ホーマーもこうやって名前をもらったのだなあ・・・。ちなみに「ウィルバー」はラーチ先生の名前。
★ラーチの父親はアルコール中毒だったらしい。母親は他人の子供の世話をする乳母だった。ものすごく象徴的だ。息子はエーテルの力を借りながら孤児たちの面倒を見ている。エーテルへの依存はアルコール依存に通じるものがあるように思う。
★無茶な堕胎を試みて結局命を落とす女の子のエピソード。ここでのホーマーの反応は「優等生の理屈」のようなもの。後にローズ・ローズの件を通して、そんな理屈を突き破って進んで行くことになる。
★いくら信念のためとはいえ、卒業証書?の偽造は無茶苦茶。でもなぜか笑いを誘われてしまう。違法だらけのラーチ先生だけど、恐ろしくチャーミングに見えてしまう。ホーマーから送られてきたリンゴのお返しに医者カバンを送りつけるところも笑える。(それが運命的に役に立ってしまう、という展開になるのだけど。)
★ラーチ、ホーマー、キャンディ、ミスター・ローズ・・・登場人物はみな不完全で過ちだらけの人物ばかり。「完成された人格者」は一人も出てこない。でも皆魅力的だ。
★ミスター・ローズのけじめの付け方は壮絶だ。だからといって許されはしないが。
★ローズ・ローズは生きていく。堕胎の失敗で命を落とした女の子と対照的だ。そしてホーマーは「役に立った」。
★ラーチ先生がエーテルの過剰摂取で命を落としたのは、事故だったのだろう、という扱いになっているが、「ホーマーという後継者を得て使命は終わったのだ」と解釈することも可能だと思う。
★ラーチの数々の嘘は信念によるものが殆どだけれど、ホーマーの心臓の写真の嘘は愛情によるものだった・・・。
★キャストに「STATIONMASTER JHON IRVING 」を確認。原作と映画の関係は常に緊張をはらむけれど、この作品は原作者が脚本を書き、出演もしてる。いわば「お墨付き」ってこと。
紛れもなく名作。
でも・・・2022年に生きる日本人から見ると、これはやっぱりファンタジーだと思う。
ホーマーは「サイダーハウス・ルール」を燃やして「違法」な道へと進んだ。
小説の中だから、映画の中だからこそ、の世界だと思う。
折しも、数日前に米国最高裁が中絶を違憲とする判断を下したところ。
(それでこの映画を観てみよう、と思い立ったのです。原作はずいぶん昔に読んだのですが。)
どうにもこうにも複雑な気分。
単純に名作の余韻に浸ることができない気分です。
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